1992年12月、ロンドンで皆既月蝕を観た。
その1ヶ月前、僕は会社を立ち上げ新しい環境に身を置いたばかり。
早々とこの地で仕事が入ったのはラッキーだったが、先々の事を考えるとどこか不安を抱えたままのロンドン渡航だった。
その日、ロンドンでは昼間のうちからこの月蝕の話題で盛り上がっていた。
BBCニュースやタブロイド紙は100年に一度の大月蝕がイギリスで観測できるかもしれないと言う、いささか大袈裟にも思える情報や見出しを掲げ民衆を煽っていた。
前日、ロンドンに到着したばかりの僕は日本では一向にこの月蝕騒ぎが伝わって来ていなかった事もあり、少々冷めた気持ちでこの話題を傍観していた。
と言うのは前日もその日も厚い雲が垂れ込め、時折小雨混じりの風に見舞われたり。。
実に真冬のロンドンらしい天候から月の出は期待できないだろうと考えていた。
その日はSOHOのチャイニーズレストランで夕食を済ませ、冷たく湿気を帯びた北風に身を震わせブラックキャブでサウスケンジントンにある友人宅まで移動。
そこでまたうだうだとスコッチグラスを傾け、暖炉の前のソファに身を沈めていた。
22時45分、テレビニュースが皆既月食の始まる時刻を告げている。
時差とアルコールのせいでこのまま眠りに落ちたかったが友人に促され起き上がる。
「月なんか見えないだろ」
そんなことをぼんやり思いながら僕はPATIOに続く階段を登る。
屋上にあるPATIOは予想外に大きく花壇まである。
不思議だ。
風がやんでいる。。
無風状態。
そのせいか少し気温が上がっているような気がした。
先程まであんなに空を覆っていた雲が緩やかに移動して、その切れ間からダイヤモンドみたいな星たちが瞬き始めている。
隣のケンジントンチャーチの鋭角な高い屋根が突き刺すかのように真っ直ぐその空めがけそそり立っている。
どこかまだ夢の中にいるような感じだ。
突然、梢で眠っているはずの鳥たちが騒ぎ始め、闇の中どこかへ飛び立つ。
その音で一気に僕は我に帰る。
覚醒する。
視線のような気配を感じ振り向けば、これまで見た事もないようなCold Moon!!
その月がゆっくり欠けて行くのが判る。
いや、大きな影が月を侵食しているのだ。
その大きな影は今僕がいる地球の影だ。
街の喧騒が無音になったような状態。
きっと全てのものが固唾を呑んだようにこの光景を見守っているのだ。
やがて僕は天空にかかる奇跡のように美しい真っ黒な満月を観た。
僕は何とも言えぬ多幸感に包まれMr.Moonlightを口ずさんでいた。
あれから29年、先日の5月26日皆既月蝕が日本でも観測できると言うニュース。
この日僕は東京の自宅にいた。
東京の月蝕予報は 月の出18:37 , 部分蝕18:44〜21:52, 皆既蝕20:09〜20:28, 蝕最大 20:18 。
ところがこの日東京は夕方から雲が厚くなり、時刻が来ても月の出は期待出来ぬまま。
それでも諦めきれずにロンドンでのあの月蝕遭遇を思い出しギネスを飲みながらバルコニーから空を眺めていた。
19時16分、突然雲の間から部分蝕の大きなFlower Moonが低い位置に顔を出す!!
それはほんの一瞬の出来事だった。
何かその月が僕に語りかけているような、あの日ロンドンで観た月蝕の幻を見ているような感覚。
このコロナ禍にあって、僕の心はどこかずっと疲弊したままだった。
そんな乾いた心が潤い満ちるようムーンパワーをチャージしてくれるために、29年の時を経てMr. Moonlightが再び僕に会いに来てくれたのだ!!
僕はそう理解した。
Cos, We love you, Mr.Moonlight~
注) 写真は2021年5月26日19時16分、東京の空に部分蝕を確認。
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