20数年前、スウェーデンのマルメに1週間ほど滞在していた。
知り合いのアーティストのレコーディングに誘われ僕は見学を兼ねてこの北欧の小さな街を訪れた。
当時、カーディガンズの世界的大ヒットで一世を風靡したトーレ・ヨハンセンがそのアーティストをプロデュースすると言う事もあり興味をそそられ同行したのだ。
トーレはそのサウンドからもわかるように大のビートルズ・フリークであった。
デジタルレコーディングが当たり前になって久しいその時代でさえ、トーレは自身のビートリーなサウンドを継承するかのようにアナログ・サウンドを追求していた。
彼は1959年生まれであるからビートルズがスウェーデンを訪れた1963年当時はまだ4歳そこそこである。
だからその記憶はない。
彼がビートルズを意識するようになるのはもう少し後、ビートルズ解散後である。
つまりリアルタイムでビートルズがセンセーションを巻き起こしていたその時代、所謂ビートルズ世代には間に合わなかったわけだ。
その事を彼は残念がっていた。
彼のタンバリンスタジオでのティータイム、僕が何気にビートルズ来日コンサートを武道館で観た話をした時、彼が仰天したように目を見開いた表情は今でも忘れられない。
今思い出しても笑ってしまう話だが彼は”Incredible!!"の連発で僕に向かって"Let me touch you!"と大袈裟にスキンタッチして来る反応。
確かにビートルズはリンゴスター加入後、そのデビュー1962年から1966年までのわずかの期間しかLIVE活動を行っていない。
しかも彼らが世界的に名を馳せたのが1964年2月。
1966年8月末コンサート活動に終止符を打つまではたった2年半しかないのだ。
つまりビートルズの海外公演が実施されたのはほぼ2年半と言う短期間である。
だからビートルズ公演を観たと言う事実はトーレのようなビートルズ信奉者にとってそれだけの大事件なのだろう。
僕自身ビートルズのコンサートを観たという事実は奇蹟に近い経験であると思い知ったのはこの時だったかもしれない。
なんともラッキーな時代に生まれたもんだ!
その事を僕に教えてくれたトーレとの出会いは旅に於ける大きな収穫だった。
そんな訳でトーレとはビートルズ話で終始盛り上がった。
マルメを訪れたのは6月の末であった。
北欧の短い夏の始まり。
サマータイム。
白夜であるため日照時間が長く21時過ぎでも明るい。
爽やかな気候であるが夜はやはり冷える。
夏とは言えパブのテラスにはヒーターが設置されている。
で、ここで多くの人がグラスを傾ける飲み物が気になってバーテンダーに同じモノをオーダーしてみた。
ロックグラスにクラッシュアイスとミントを目一杯入れ謎のスピリッツを注いでくれる。
その銘柄がよくわからない。
北欧の薄暮の中、この淡い琥珀色の液体はテーブルの上で実に絵になる。
グラスの底にはブラウンシュガー。
なのにあまり甘さを感じないのは強烈なソーダとそのスピリッツの度数がかなり高いためだと思う。
見た目はモヒートの感じだが使用されているスピリッツのせいかあきらかにこれまで飲んで来たモヒートとは違いドライで喉に沁みる。もしかしたらウォッカを使用していたのかも。
たかがスピリッツとの小さな出会いではあったが、
「モンテクリスト」と言うその名のカクテルをその日から帰国するまで僕はオーダーし続けた。
帰国してからこのスピリッツが何故か忘れられず訪れるBarカウンターで何度か訊ねてみた。
中にはコーヒーリキュールやカルアミルクを入れた全く別物のカクテルが「モンテクリスト」と称され提供された事もある。
モンテクリストと言う名にちなみフランスを訪れる度、各地でこのカクテルをオーダーしてみた事もある。
この20数年、イタリア、バチカン、ベルギー、スイス、デンマーク、オランダ、ドイツ、イングランド、スコットランド、アイルランド、アイスランド、数々のヨーロッパ圏、北欧を旅したがあの「モンテクリスト」についぞ巡り会う事はなかった。
あれから膨大な時間が流れ、そのスピリッツの強い喉越しをもう僕はきっと、とっくに忘れている。
そんな3月のある日、とある横浜のBarで「モンテクリスト」と言うラムに出会うことになる。
早速このラムを使用したモヒートをオーダー。
たっぷりのクラッシュアイスとミント、そしてブラウンシュガーもリクエスト。
ソーダの種類もあるのだろうが思ったより滑らかな舌触りで喉越しも柔らかい。
あのマルメで出会った衝撃とはやはり全く別のものだった。
あの日マルメで出会った幻のような「モンテクリスト」。
それからの長い年月、その後の遠く彼の地までの旅はきっと僕の数々の思い出を上書きしている。
だが、それは悪い事ではない。
時間の経過、人生とはそう言うものだろう。
「今でもうしろを ふとふり返れば
あなたが笑って たってるような気がして
時はいつの日にも 親切な友達
過ぎてゆくきのうを 物語にかえる」
ユーミンの歌が僕の頭を過ぎる。
そんな出会い、思い出作りはあとどれくらい僕に残されているのだろう。
各国のコロナ規制も緩くなるようだ。
そろそろ僕も旅支度をしよう。
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Virgin VS.....いやはや。。
投稿情報: tokyoboy | 2023/04/28 00:45
Virgin-VSの今月出るCD(LIVE)タイトルが「モンテクリスト・ファンクラブVol.1」だそうです。
投稿情報: ライン-オン | 2023/04/01 23:34