ビートルズの新譜「ABBEY ROAD」が発売された朝、正確には1969年10月21日、学校をさぼって朝一番で紀伊国屋帝都無線に足を運び、そのレコードを手にした。 そしてジャケット写真に釘付けになった。輝くばかりの雲ひとつない青空の下、生い茂る樹木の横断歩道を風を切るように4人が歩いて行く。 そのバランスの良さにうっとりしながら「ビートルズは大丈夫だ」と心の中で思った。 ビートルズはそのスタジオで再び起動したのだ。 僕はいつになく幸せな気分でレコードを小脇に抱え開店したばかりの風月堂に足を運んだ。 僕が一番乗りかと思ったら先客がひとりいた。僕の友人である。 「おまえ早いなぁ!」 驚く僕の言葉を遮って友人が眠たそうな眼をこすりながら呟いた。 「1年前の今日、オレ新宿騒乱でパクられたんだ。。」 今やフーテンに成り下がった僕の友人は家出、年齢を誤摩化し住込みで牛乳配達をしていた。 僕は紙袋から自慢げにアルバム「ABBEY ROAD」を取り出し、そいつにどうだとばかりに見せてやった。 早番のいつものウエイトレスが「あら、ビートルズの新作!!」と身を乗り出した。 「横山さん(店主)まだだから聴いてみよう」 彼女はターンテーブルにレコードを乗せるといつも店内に流れているクラッシックBGMとは比べ物にならないくらいアンプのボリュームを上げた。 太くしっとりしたあのうねるようなベースのCome Togetherが店内に響き渡った。 「うわ、こんなベース聴いた事無いぜ」友人が飛び起きたかのように興奮。 そのドラムとジョンの声に僕も同じく震えた。 2曲目のSomethingの途中でさすがに掟破りを躊躇したのか、ウエイトレスがレコード針を上げた。 「聴きたいけどバレたらあたしクビになるよ」 風月堂はそのクラシック・レコードの豊富な在庫で有名な店である。 客のリクエストに応えてもクラッシックしか流さないのがモットー。 勿論、僕らも仕方なく納得した。 多分、後にも先にも風月堂にクラッシック音楽以外のものが鳴り響いたのはあの時が最初で最後だ。 「これ聴くとさ、やっぱりビートルズの解散は無いよな」 僕は自分に言い聞かせるように頷いた。 ところが友人は「でも、このジャケット写真、なんだかビートルズが道を渡ってどこかに去って行くみたいに見えるぜ」と呟いた。 友人のその言葉にどこか気持ちがざわざわした。 「とにかく来年はもう70年代だぜ。いつまでもビートルズじゃないのさ、うかうかしてられねえよ。時代は変わるんだ」 少しだけ学生運動にはまり「人民管理」なんて旗を振って革命家の言葉に酔っていた友人らしい変革宣言だった。。(つづく)
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